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伝説の宮大工 『西岡常一棟梁』唯一の内弟子『小川三夫氏』の談話

ロータリークラブの月刊誌「ロータリの友」1月号に最後の宮大工といわれた西岡常一(つねかず)棟梁の唯一の内弟子『小川(おがわ)三夫(みつお)氏』の談話が掲載されました。


日頃、 維持・管理・修理などの難題に取り組む重文民家の所有者として小川三夫氏のお話は感動的でしたので、その一部をお伝えしたいと思います。


ちなみに、小川三夫氏は法隆寺を始め法輪寺、薬師寺金堂等々国宝クラスの仏閣の再建をされた西岡常一棟梁唯一の内弟子で、現在は(株)鵤(いかるが)工舎の総棟梁です。宮大工の世界の厳しさが身に迫って来るお話です。


1.    修学旅行で奈良の法隆寺を見て宮大工に憧れ、卒業後西岡棟梁に入門を願うも許されず、3年後にやっと入門が叶う。 当初は仕事場の掃除と手道具の手入れ、毎日、毎日刃物の研ぎばかり。

宮大工の道具とは、ものづくりをする為の手・指の延長で、切れる刃物と工人の思いが建物を造り上げる。 物は執念で造るもので、工作技術のみでは駄目。


2.    法隆寺五重塔のヒノキ材:


ヒノキ材は、伐採後200年ほどで強度が増し、それから1,000年位

かけて弱くなっていくもの。

法隆寺五重塔の昭和の大修理の時、解体した五重塔の取り換え木材は

35%、あとの65%は1,300年前のそのままの材を使用した由。



3.    ノコギリ(鋸):


法隆寺創建時の飛鳥時代には未だ『ノコギリ』が無かった。

細かい細工のできるノコギリは室町時代(14~15世紀)に初めて登場。

当時は木を割って製材したので、扱う材はどうしても不揃いなので「適材適所」に使って五重塔に組み上げていた。

現在のように正確な設計図が準備され、寸法が決まっていて規格化された綺麗な材を組み上げれば終わりと云う時代ではなかった。


4.    「木は生育の方位のままに使え」:


これは、木を生育環境のまま材木として使えと云うこと。

東大寺の国宝・転害門(てがいもん)は奈良時代の建造物で西向きに建っている。

正面である真西側の材はつるつるきれいだけど、真南から見ると節だらけである。 木は生育する中で南側に枝が出るので南側は節のある材木になる。 転害門(てがいもん)は口伝通り、育成のままに材を使っているので奈良時代から今まで倒れず残っている。


5.    巨大な材の調達:


東大寺大仏殿は何度も消失・倒壊しましたが、昭和の大修理の時、 江戸時代(元禄時代)の修理に使われた二本の大きな松の梁に出会った。梁は江戸時代に九州の霧島山(鹿児島県)に生えていた赤松材を使っていた。

梁の長さ23.5メートル、元口(根本の方の切口)は1.5メートルなので製材前の原木は更にひと回り大きかったでしょう。 この原木を水運で奈良の都まで運んで来たのです。

まず、霧島山から海岸まで下ろすのに約60キロメートル、約10万人の人と牛4,000頭をかけて運んだそうです。 大変な大仕事です。

しかし、その巨大な木を使って再建した元禄時代の大仏殿よりも、奈良時代の創建当初の建物はもっと大きく、気の遠くなる様な作業を人の力を合わせて建てたのです。


6.    知識と知恵:


伝えて伝わるものが『知識』、身体の中から湧いてくるものが『知恵』。

『知恵』は日常の生活や経験の中で身に着く『技』という形で現われる。 従い、職人技を自分のものにするには知識だけでは無理。

そこに『知恵』が入ってこそ自分のものになっていく。

法隆寺や薬師寺のような古代の塔は『知恵』の塊。 その塔の中に入り静かな心持で1,000年前の木に触れ、昔の人の仕事を見ていると古代の工人の声が聞こえ仕事の風景が浮かんで来る。 知恵の技がなければ東大寺のような大きな寺やその柱一本も立てられない。

不揃いの木、一本一本が支え合ってあの五重塔が建てられているのです。 その不揃いが美しさを出している。

宮大工の世界では、教わることは甘えに繋がるので本人が学ぶ気持ちが湧くまで待つ。 一般企業では、無駄を省き即戦力を求めるので直ぐに教え込まねばなりませんが。


7.    技は体の記憶:


時代の変化が早く、目と耳で学べる知識は何とかなるものの、手と体で覚えていく仕事は大変長い時間をかけて技術を体得させるものなので一朝一夕には育たない職人という仕事は難しい時代になりました。

古代建築を造り、守って来た技は文字や数字ではない手と体の記憶です。


8.    法隆寺の昭和の大修理の時、西岡常一棟梁はじめ現場の職人たちは1,300年前の工人と対話が出来たので飛鳥の姿が再現出来ました。

何百年か先にまた解体修理される時、昭和~令和の大工の工夫を読み取ってくれる人が現れるでしょう。 本物を造っておきさえすれば、技術はまた蘇る。本物とはいつの世でも変わることなく心を打つものです。

                       以上     


ロータリークラブ会報『ロータリーの友』より抜粋

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